【山守に守られている❗️不思議な生態系の湿原】~奥びわ湖・山門湿原~(#88)

ハイキング

山門湿原(やまかどしつげん)

滋賀県長浜市西浅井町(琵琶湖の北側、いわゆる奥琵琶湖エリア)にある、「山門水源の森」の中心に位置する湿原。一見すると小さな湿原ですが、“学術的な宝庫”と呼ばれるほど非常に貴重な自然環境が残されています。地質学や植物の研究者にはたまらないスポットである。

約4万年前の断層活動による地滑りでできた窪地に、ミズゴケなどが堆積してできた湿原。長い年月をかけてできた泥炭層(深さ約1.7m)が残っている。

タイトルにもあるように、この場所は日本海側気候(雪国)と太平洋側気候の境目に位置し、本来なら標高の高い場所に生えるブナ(冷温帯・南限に近い)と、暖かい地域のアカガシ(暖温帯・北限に近い)が同じ森の中で隣り合って自生しているという、全国的にも極めて珍しい植生が確認されている。低い標高なのに、高層湿原のような環境があり、北と南の植物が混在する不思議な生態系が魅力。
協力金300円で入山できるのは非常にありがたいことである。

✅️春(4月〜5月)
 ミツガシワ: 氷河期の遺存植物。白い独特な花を咲かせます(4月下旬〜5月上旬頃)
 トキワイカリソウ、ショウジョウバカマ: 森の林床に咲きます。
 新緑: ブナ林の美しい緑が楽しめます。

✅️初夏〜夏(6月〜8月)
 トキソウ: ピンク色の可憐なラン科の植物(6月頃)
 サギソウ: 白鷺(しらさぎ)が飛んでいるような形の花。山門湿原のシンボル的な存在(8月中旬頃)
 ハッチョウトンボ: 日本最小のトンボ(1円玉くらいの大きさ)が見られる。

✅️秋(11月頃)
 湿原の草紅葉(くさもみじ)や、周囲のブナ、コナラ、アカガシの紅葉が美しい季節。

✅️冬
 滋賀県内でも屈指の豪雪地帯。
 年にもよりますが、約1~2mに達するのが一般的。
 雪の歩きでは、スノーシュー・ワカンが必須である。


この時期、紅葉とも重なり森の中は赤や黄に彩られ、圧巻の情景が浮かび上がっていました。
落葉樹であるブナも今週がピークとなり、訪れたタイミングは良かった😊

湿原はというと、やはり新緑~深緑にかけてが良い季節ではないか???
雪解けの豊富な水に浸された湿原に青々とした緑と可憐な花たちが映えるのではないかと感じる。
ここはミズゴケが堆積した泥炭湿原。永い永い年月を経て現在でも変化をもたらしている。


素晴らしい湿原の魅力を是非動画でも愉しんでください。

🏔️#88



もうちょっと掘り下げて、「山門湿原」を紹介したいと思います。
詳細については、「奥びわ湖・山門水源の森・山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会 2020年」を熟読してほしい。Amazonなどで定価2,750円で販売されている。著者も1日で読み終え、“ここは知ってほしい”箇所を抜粋して簡単にまとめてみることにした。

いやちょっとまてよ❗️たしか著書内に『来訪者の増加は、歓迎すべきことだが、観察コースの維持管理の面からは、必ずしも万歳というわけではない』と書きつづられていたな~😨
外部からの種子の持ち込みによる生態系の変化と除去作業、もちろん森道の整備、植生保護などの観点から、先日閉幕した“万博”並みの人が押し寄せると大変なことになってしまう(ないか笑☺️)

そうなってしまうと、「予約制」という形をとり、人数制限をかけるとか?協力金ではなく、入山料を徴収するとか?などなど著者も今回初めての入山、YAMAPとヤマレコで登山ルートを設定し、いつものように山登りする感覚でお邪魔したのだが、「森の楽舎」(管理棟)では名前・住所・電話番号の記入、そして管理人による丁寧なコース説明。
※実際には、『年にもよるが、3,000~4,000人訪れている』(10名/日ほどになる、人気スポットである、入山時の当日、40名ぐらいの団体がいました)

そう、ここは八雲ヶ原湿原などとは少し違い、“山守”の方々がしっかりと保護・保全活動をしているところに足を踏み入れている、そういう心構えが必要なのではないかと感じました。


「山門水源の森」の魅力



コースマップ

観察コースの大部分は、1960年代まで薪炭林として利用していた時代の山道に沿って整備された全長4.5kmのコースである。

コースマップ






中央分水嶺

守護岩からコースを外れ、北へ10分ほど歩くと、福井県との県境で、眼下には北に敦賀湾、南にびわ湖が望める。ここがちょうど「中央分水嶺」にあたる。

湿原近くの中央分水嶺

●分水嶺
雨水が異なる水系に流れる境界。北は宗谷岬~南は佐多岬までの5,000kmが一本の線でつながっている。

日本海までわずか10kmあまりのこの森に降った雨は、大浦川~琵琶湖~瀬田川~宇治川~淀川~大阪湾(太平洋)へと注ぐ(壮大な話である)






湿原の歴史

昔々の湿原はどうであったのか???
地域に残されている江戸時代の絵図によると「大池」「小池」という標記が見られ、水域が広がっていたことがわかる。1947年(昭和22年)の空中写真(米軍)までの詳しい状態は不明。

『1960年代中頃の地域住民による人工的改変が明らかとなった。目的は湿原を埋め立て、ゴルフ場用の芝栽培を行うことであった。しかし、保安林であるための許可されず放置されることになり、一気に遷移が進んだ』
※遷移: ある場所の植物の姿が自然に移り変わっていくこと

『もともと湿原であったが灌木帯となった事実を前に、元の湿原に再生するべきかどうかを議論。2002年に滋賀県ともに協議を行い、試験的に100㎡の樹木を伐採し、湿原に再生する作業を実施した』

自然環境では、変化の摂理にしたがい“遷移”というプロセスを踏んでいく。
放置されていた山門湿原も藪(?)状態になっていたものと思われる。

2010年7月に中央湿原奥も再生作業が完了したと記されている。“人の力”により再生した湿原といえる。
再生した湿原には、絶滅危惧種であるミヤコアザミの定植・増殖に成功、安定した開花が続いている。また水生昆虫の生息も確認され始めている。

さかのぼること、
1987年「山門湿原研究グループ」が発足。
1987~1992年まで毎月一回の山門湿原の各種調査を実施し、報告書にまとめられている。
1996年、山門水源の森一帯の63.5haを上の庄生産森林組合から買収し、
1997年からの一般公開をするために整備を行うこととなった。
1999年、観察コースの整備が完了し、2001年4月に一般公開となった。
同時に「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」が発足、貴重な森の自然と文化を調査・保存を担うこととなる。






トンボ

自然環境としてうまく機能しているかどうかの判断として、トンボが一つの指標生物であると考えられている。専門的にはアンブレラ種(生態的傘種)としての側面も持ち合わせており、トンボが多様に生息している場所は、他の多くの生物にとっても住みやすい環境であると言える。もちろん山門湿原においても50種確認がとれている。
※全国に生息する約200種のトンボのうち、滋賀県内では100種も確認されている。






様々な困難

豪雨による土砂

『豪雨時に土砂が湿原に侵入するのを防ぐため沈砂池を造成。しかし、上流部山地は風化の進んだ花崗岩で降雨のたびに大量の土砂が流出し。沈砂池はすぐに満杯に。これを防ぐために沢の上流部に何箇所もの砂防堰堤をつくり、定期的に堆積した土砂を浚渫する作業を繰り返した。2013年の台風18号では四季の森の上流部で土砂崩壊が発生し、大量の土砂が沈砂池を埋め尽くし、湿原にまで流入した』
予想もつかない、予想を絶する自然現象との戦い。

防獣対策

『20年間の保全活動では、必要に応じて防獣対策も行ってきた。その対策で苦労した動物は、ニホンジカである』
シカによる希少植物への食害。定期的なパトロール、イタチごっこと化した防獣ネットの設置。
増えすぎたシカ(推定値)に対しての活動密度が高い分、際立ってくるのだと感じる。
大変ご苦労な作業であったことを感じる。






冷温帯と暖温帯の接点

この森(山)では、冷温帯と暖温帯の植物が隣り合わせで共生している面白い現象が起こっている。
寒い地域に分布するブナ。日本海側の多雪地に多い。近年では水源涵養としての機能を見直され、保護が重要視されている。
温かい地域に分布するアカガシ。主に九州・四国地域に生息している。
冬には季節風によって日本海側の気候の影響を強く受け、夏には太平洋側の高温多湿な気候の影響を受ける接点に位置しているここ山門湿原では、こういった不思議な現象が起こっている。





「山門水源の森2050」

「山門水源の森2050」というプロジェクトを進行中。
水源の森の2050年のあるべき姿を検討するもので、森は長期の気候変動や生物の遷移に支配されるために、そのことを織り込んだ保全計画が必要であると考えられている。
森にとって、これが良いことなのか?悪いことなのか長期的な視点で観察していかなければならない。




最後に、
各山域・森林には“山守”という日本の森林経営や自然保護の根幹を支えてきた専門職の方々がおられる。
ルーツは非常に古く、『日本書紀』や『古事記』の時代(古墳〜飛鳥時代)にまでさかのぼる。当時は、「山守部(やまもりべ)」と呼ばれ、天皇や豪族が狩猟や木材調達のために所有する山野を管理する役職でした。

近年では環境保全・保護の観点から、ボランティアやNPOが新たな“山守”として里山の整備を行ったりしている。便利な時代になっているが、実際の作業は人海戦術に頼らなければならない過酷な仕事である。
著者も体験したことはない。

一度体験したく「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」に入会を申し込んだ😊




【出典】
 ・Google Map
 ・「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」Webサイトより
 ・「奥びわ湖・山門水原の森 山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会 2022年」より
 ・「NPO法人霊峰伊吹山の会・ユウスゲと貴重植物を守り育てる会」より
 ・「南部森林整備事務所 森林整備担当」より