北信の高層湿原「苗場山」に行ってきました。
誰もが(たぶん)快晴の大湿原を夢見るもの。でも、あいにくの雨☔。午前中には雨もあがり、お天気回復を待ち望んでいたのだが急変することはなく厚い雲がとれることはありませんでした。山頂付近はガスが出ていたものの視界不良になる濃さでもなく、湿原全体を見渡すこともでき、100%満足か?というと70%ぐらいでおさまった今回の山行でした。
苗場山とは
新潟・長野県境の火山・苗場山の山頂には、ゆるやかな平坦面に池塘が無数に散らばる大規模な高層湿原が広がっています。熔岩(不透水層)の上に積もったローム層(貯水層)と多雪・緩傾斜という条件が湿原を生み、斜面に沿って階段状に発達する他に例のない姿が、棚田の苗代に見立てられて山名の由来となりました。カルデラを挟んだ対岸の小松原湿原も同じ成因を持つ原始的な湿原だが、周辺のブナ林伐採によって当時の文献では存続が危ぶまれていました。
山頂に広がる大湿原と池塘群
●山頂から南西の標高約1,800mまで傾斜の非常にゆるい平坦面が続き、南北約4km・東西約2kmにわたる高地性の大湿原を山頂からほぼ一望できます。
●チマキザサの群落に囲まれた低木状のオオシラビソ林が点在し、その間に大小無数の池塘(湿原のくぼ地にできた小さな池沼)が散らばっています。
苗場山の成り立ち
簡単ではあるが、苗場山の歴史を探ってみましょう。
苗場山の噴火活動
熔岩と火山砕屑岩が交互に重なる成層火山である。苗場山(苗場火山)は、約80万年前から約20万年前にかけて活動した成層火山で、大規模な噴火を繰り返して現在の山体を形成しました。苗場山の活動は、古期と新期の2つに大別され、さらに4期に分けられています。
| 古期(第1期) | 新期(第2期~第4期) | |
| 時期 | 80万年前~ | 30万年前~約20万年前 |
| 噴出物 | 火砕流と溶岩流 | 主に溶岩流 |
| 特徴 | 最大噴出量を記録した活動期 | 安山岩質の溶岩を噴出 |
| 分布 | 山体周辺に限られる | 約30万年前頃、山頂部に安山岩の溶岩が北東及び南方にゆるい傾斜で流れ、平らな溶岩原面(現在の山頂台地)を形成 |
山体の形成過程
①基盤: 標高1,600m付近までは、新第三紀中新世(約2300万〜500万年前)の火山岩が基盤となっています。
②成層火山の形成: 約30万年前に現在の山頂部が形成され、岩質は安山岩質。
③山体上部の安山岩質火山岩: 2つの時期に分けられます。
古期: 第四紀カラブリアン期(約180万〜78万年前)の噴出物
新期: 第四紀チバニアン期(約78万〜13万年前)の噴出物
④第4期(最終活動): 約30万年前頃、山頂部に広く安山岩の溶岩が流れ、現在のテーブル状の平坦な山頂面を形成。
⑤侵食: 火山活動終了後、小赤沢川、栃川、中津川などの河川によって、かなり部分が削り取られました。
山頂台地の特徴
現在の苗場山山頂部は、東西2km、南北4kmに及ぶ広大な平坦面を持ち、これは火山活動の最終期(第4期)に噴出した溶岩流の名残です。この平坦な溶岩台地の上に、長年にわたって高層湿原が形成され、無数の池塘が点在する「天空の楽園」と呼ばれる独特の景観が生まれました。
最新の噴火活動
●約6万年前: 水蒸気爆発が最後の活動との説
●約20万年前: 火山活動の終了との説
いずれにせよ、少なくとも数万年間は噴火活動がなく、現在に至っています。
日蔭山・神楽ヶ峰・苗場山の半月状カルデラ
山頂から神楽ヶ峰を経て日蔭山(1,860m)へ半月状に尾根が続き、その西側に直径約5kmの馬蹄形カルデラが西北西へ開く。火山活動末期のくぼ地が川に削られて拡大した侵食カルデラと考えられています(一見大噴火跡のように見えますが)

形成過程はこう↓
①火山活動: 苗場山は約30万年前の第4期噴火で現在の山体が形成された成層火山。
②火口からの溶岩流出: 山頂は硫黄川源流部の火口から流出した溶岩からなる溶岩台地。
③侵食: 火山活動終了後、硫黄川の侵食作用によって山体の西側が大きく削り取られた。
④馬蹄形地形の完成: 侵食によって西側が開いた馬蹄形(半月状)のカルデラが形成された。
湿原ができる仕組み
●苗場山の条件:熔岩が水を通さない層、ローム層が水を蓄える層として働き、多雪で傾斜もゆるいため水がその場にとどまり湿原が形成されたと推定されます。
●低層湿原:低温・過湿の土壌では枯れた植物が分解しきれず泥炭として堆積する。酸性の腐植質が地下水などで中和され、中性の泥炭となったものが低層湿原。
●高層湿原:泥炭が厚くなって地下水から遠ざかると泥炭が酸性化し、表面にミズゴケが生える。ミズゴケは中央部ほど旺盛に育つため湿原の中央が盛り上がり、この形から、栄養分の乏しい酸性のミズゴケ湿原を「高層湿原」と呼ぶ。
階段状の高層湿原と山名の由来
●苗場山の湿原は典型的な高層湿原で、斜面に沿って階段状に発達している点が他の高層湿原に見られない大きな特徴。
●池塘にはヤチスゲやミヤマホタルイが生えるものが多く、棚田の苗代のような景観をつくることから「苗場山」と名付けられたとされています。
池塘に暮らす生き物
●水質:池塘の水は茶褐色で、pH 4.6〜5.6の酸性。
●水中の生物:体長約1.6mmのヤマヒゲナガケンミジンコが高密度で生息し、ヤゴやカワゲラの幼虫など水生昆虫も多い。
●両生類:高地にもかかわらずアズマヒキガエル、モリアオガエル、クロサンショウウオなどが繁殖。雪解け後の5月下旬〜7月に産卵し、幼生は8月上旬までに変態して上陸する。
植生と景観
●池塘の周囲にはヒメシャクナゲ、ワタスゲ、モウセンゴケ、やや乾いた場所にはチングルマやイワイチョウが生える。


●コバイケイソウやベニサラサドウダンが咲く湿性お花畑が点在し、ベニヒカゲやキチョウなどのチョウが舞う。
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●登山者がまだ比較的少なく、オオシラビソの林間を霧が流れる神秘的で独特な風景が保たれている。

苗場山の山行記録
ルート・山行情報

| 山域 | 上信越高原国立公園 |
|---|---|
| ルート | 小赤沢3合目駐車場~[小赤沢ルート]~苗場山(ピストン) |
| 距離 | 8.9km |
| コースタイム | 7時間00分 |
| 累積標高差 | 登り843m/下り839m |
| 路面 | 8.5合目から木道中心、それまでは泥と石と岩との戦い、雨天時は滑りやすい |
| 駐車場 | 小赤沢3合目駐車場(無料)100台以上 |
| トイレ | 小赤沢3合目駐車場にあり、苗場山頂ヒュッテにあり(この間にはトイレはありません) |
| 訪問日 | 2026年9月20日 |
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山行動画
山行中の画像
前泊したのは、長野県下水内郡栄村堺にある「北野天満温泉学問の湯」
山間にポツンと現れた静かなお宿(車のナビ合ってる?と疑いながらなんとか着きました)
お部屋良し! 料理良し! 温泉良し! サービス良し! なんせ最高~でした☺️
「翌日6時出発、朝食をお弁当にしてほしい」とチェックイン時にお願い、しっかりと対応していただきました(まさに神対応)※読者の方々は事前に申し出てくださいね。
朝6時に宿を出発
カーナビの所要時間は1時間40分(?)事前に調べていたルートだと45分で着くはずが。。。謎の現象に戸惑いながらも出発、小赤沢3合目駐車場には7時過ぎに到着。雨具を準備し早速出発。
鎖場が5~6箇所あり
事前には把握していたが、5~6箇所鎖場があります。
登りは鎖を掴まなくてもなんとかいけそうですが、本日の路面状況ですと下りは必須です❗️
遠くの山々が美しい
そして、大湿原へ
同じような写真が並んでいるが、ここに行ったものにしかわからない感動があるのだ。
空は曇天、すでに草紅葉が進み、冬支度の湿原(これも良し!)

三角点と苗場山頂ヒュッテ
一等三角点いただきました。
そして、夏の遠征で宿泊予定をしていた「苗場山頂ヒュッテ(苗場山自然体験交流センター)」
今回見送りましたが、またお世話になります。
いろんな発見
苗場山周辺のもう一つの発見
当記事執筆中にいろんな文献を読んでいると、苗場山の近所に同様のテーブルマウンテンが存在することが判明しました。また歴史が古い温泉が苗場山の麓にあることも。ここで紹介をさせていただきます。
もう一つのテーブルマウンテン|小松原湿原
小松原湿原は苗場山の北北西斜面、標高約1,300〜1,600mに広がるなだらかな湿原地帯で、にぎわう苗場山頂や越後湯沢側とは対照的に訪れる人が少なく、静かな自然を満喫できる。
苗場山の第3期火山活動に伴う溶岩の上に形成された高層湿原です。

小松原湿原へのルート
ゴールを小松原小屋とする(勝手にルートを考えてみました)

①新潟県十日町からのアクセス(片道230分)
小松原湿原の北側に、小松原登山口がある(大場ゲート下駐車スペースから約2時間)
●大場ゲート下駐車場スペース→(120分)→●小松原登山口→(60分)→●中屋敷→(50分)→●小松原小屋
②見倉トンネル前風穴からのアクセス(片道220分)
●風穴→(105分)→●金城山[1,353m]→(65分)→●中屋敷→(50分)→●小松原小屋
③苗場山頂ヒュッテからのアクセス(片道285分)
●苗場山頂ヒュッテ→(75分)→●神楽ヶ峰[2,030m]→(100分)→●霧ノ塔[1,993m]→(55分)→●日蔭山
[1,860m]→(55分)→●小松原小屋
③とした場合、小松原小屋泊もしくは苗場山頂ヒュッテ泊をオススメします。
3つのポイント「上ノ代」「中ノ代」「下ノ代」
湿地帯にはそれぞれ「上ノ代」「中ノ代」「下ノ代」との名があり、池塘が点在しています。

秘湯|赤湯温泉
今回の山行計画中に、「昌次新道」ルートも検討していました。歩行距離が長いために赤湯温泉で1泊もしくは2泊と計画を模索中に発見したのが、「赤湯温泉 山口館」
なんとも言えない素朴さ、絶妙な立地で次回是非ともお世話になりたいと。
赤湯温泉は、新潟県南魚沼郡湯沢町三国にある秘湯で、苗場山登山のベースとして利用されてきた一軒宿「赤湯温泉山口館」が営む温泉です。赤湯温泉の最大の特徴は、車で行くことができず、登山装備をして徒歩でアクセスする必要があることです(いわゆる山小屋)
清津川にかかる小日橋手前のスペースに駐車、山口館まで徒歩2時間45分(2.5km)、標高差450mのトレッキング。
ちなみに山口館~苗場山山頂(片道)まで5時間20分(6.0km)、標高差1233mとまぁ~過酷な山行なのかな。なので行って、帰っての2泊が妥当かなと思われます。
苗場山の池塘とシラビソ疎林の関係
最後に、
池塘とシラビソ(オオシラビソ)の疎林が独特のモザイク状の景観を形成しています。この関係には、地形・気候・植生遷移などの要因が深く関わっています。
植生の垂直分布
苗場山周辺の植生は、標高に応じて以下のように分布しています。
| 標高帯 | 植生 |
| 約700〜1,500m | ブナ主体の落葉広葉樹林帯 |
| 約1,500〜1,800m | ササ・ダケカンバ群落 |
| 約1,800m〜森林限界 | オオシラビソ・コメツガ主体の針葉樹林帯 |
| 森林限界上部 | 岩礫地・お花畑 |
| 山頂部 | 高層湿原(池塘が点在) |
疎林ができる理由
森林限界(約1,800m)から上部の山頂台地(2,145m)では、以下の厳しい環境条件のため、木々が完全に密集できず疎林となります。
●強風・霧:高山帯では風が強く、霧も多い
●日射量少:天候不安定で日照時間が短い
●積雪量大:冬季の積雪が4〜5mに達し、積雪期間も長い
●土壌風化不十分:寒冷な気候で土壌の発達が遅い
●水はけ不良:溶岩層上の平坦地で水が溜まりやすい
これらの条件により、シラビソやコメツガは背が低く、まばらに生育する疎林となります。
植生遷移
高層湿原では、長期間にわたり泥炭が堆積し、植生遷移が進みます。初期には池塘が多く存在しますが、遷移が進むと泥炭の堆積により池塘が埋まり、草原化していきます。苗場山の場合は、まだ遷移の初期〜中期段階にあり、無数の池塘と針葉樹の疎林が混在する状態が保たれています。
生態系の重要性
苗場山の池塘と疎林は、以下のような重要な役割を果たしています。
・希少植物の生育地:ミヤマホタルイ、トキソウ、ヒメシャクナゲなどの希少な湿原植物・高山植物が多数分布。
●水質浄化:高層湿原の水質は「弱酸性」で、水源地としての機能を持つ。
●信仰の場:池塘に生えるスゲ草が「苗」のように見えることから「神の苗代田」として信仰されてきた。
このように、苗場山の池塘とシラビソ疎林は、地形・気候・植生遷移が織りなす独特の生態系を形成し、日本の高山湿原を代表する景観の一つとなっています。
まとめ
やはり、この苗場山の高層湿原には地質学・火山学・植物学・植物社会学・生態学などの分野において非常に貴重な場所であることを改めて理解できました。またこの地を訪れる際には、昌次新道ルートを通り、苗場山頂ヒュッテに宿泊し、小松原湿原に向かい、帰りに山口館で温泉に浸かりたいと考えています。
【出典・引用】
・Google Earth
・Google Map
・「北野天満温泉学問の湯」公式サイトより
・「苗場山頂ヒュッテ(苗場山自然体験交流センター)」公式サイトより
・「赤湯温泉 山口館」公式サイトより
・「北海道大学・露崎史朗 (TSUYUZAKI Shiro, 植物生態学・環境保全学)」サイトより
・「環境省・上信越高原国立公園(苗場地域)指定書」より
・「新潟県庁」公式サイトより
・「関東森林管理局」公式サイトより
・「日本の湖沼と渓谷」1987年より
・「図解にいがた歴史山歩南魚沼」1983年_新潟日報事業社より
・「上信越高原国立公園」1955年_国立公園協会より
・「山と高原」1961年_朋文堂より
・「国立公園」1998年_自然公園財団より


















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